半生記Part3

 


次は人格形成となる程重要ではないかもしれないが、私が今まで告白された中でも1番変わった方法だったので話すことにする。

 

その人は当時の私から見て随分と変わり者だった。仮名を鈴木とする。今思えば恐らくコミュ障だっただけなのだろう。話す時はどもり過ぎてて何が言いたいのかよく分からない。笑う時が「フヒッ」という笑い方で不気味。クラスで隣の席だった時はよく私の持ち物に落書きをしていた。1番変だと思ったのは下校時の出来事である。私の家は小学校から1kmくらい離れた所にある。鈴木真反対に住んでいる為、一緒に帰ることはなかった。その日は校門まで一緒だった。その時の会話の中で私は鈴木をからかった。すると「こらー男子ー!!」のノリで追いかけてきた。これだけならよくある光景だったのだが、私は校門を出て自宅方向に数m走ったところで足を止め、鈴木に「また明日ね〜」と挨拶をしようと思った。すると、まだ鈴木は諦めずに追いかけてきていた。まだやるのかと驚きつつも私は自宅方向に逃げた。流石に真反対の家だからすぐに諦めると思っていた。だが甘かった。鈴木は結局自宅のすぐ近くまで追いかけてきた。自宅付近まできて恐怖感を覚えた私はそれまで軽く走っていた足を速めて振り切ることにした。物陰で見ていたが、目標を見失った鈴木は諦めて元来た道を歩いて戻って行った。私は少しからかったつもりだったのだが、もしかするとかなり怒らせていたのかもしれないと反省した。

次の日の朝、学校へ行って鈴木と顔を合わせるとまた追いかけてきた。やはり怒らせていたのかと思い、逃げずにその場に留まった。追いついた鈴木は「ちょっと何よ昨日の〜!」とツッコミを入れてきて、終わった。

この為だけに昨日は逆方向に1km近く追いかけてきたと知った後も私は態度を変えることなく普通に接した。当時の私は聖人だったのかもしれない。


私は小学4年生が終わると同時に東京から埼玉へ転校した。当時携帯など持っているはずもなく、個人情報の取り扱いもまだ甘かった為、私の新住所は公開されていた。すると5年生の正月、鈴木から年賀状が届いた。転校して以来会っていないので約1年ぶりのやり取りだ。我が家は母が最初に年賀状を回収し宛先毎に分けるため、内容までは読まずとも目には入る。その母から「変わった年賀状が届いてるよ」と言われ手渡された。鈴木からの年賀状には大きなハートとメッセージが書いてあった。メッセージの内容は今でも一言一句漏らさず覚えている。

「私はりっかくんのことが大好きです。りっかくんは私のことどう思っていますか?大好き・好き・ふつう・きらいから選んで返事下さい。」

最初に出た私の感想は「せめてあけおめくらい書いてくれ」であった。年明けを感じさせるものは、そのハガキがお年玉付き年賀ハガキであったことと、申し訳程度に貼ってあったスクラッチのおみくじシールのみだった。ちなみに大吉だった。

母から「なんて返すの?」と聞かれ、私は「嫌いか大嫌い」と返した。すると母に「大嫌いは選択肢にないよバカ!それにこういうのは大好きか好き以外の時は言わないのが無難なんだよ!」と叱られ、女心のいろはを叩き込まれた。結局返事は母の監修の元、「あけましておめでとう!今年は会えるといいね!」と返した。

私は女心と優しい嘘があることを学んだ。

ここでも蛇足だが、仮名の鈴木は外国人ではないにも関わらず髪型がパパイヤ鈴木並のアフロだったことから名付けている。

 


最後は小学5年生のバレンタインである。

その日に限らず近所には広い公園がなかった為、放課後はみんなで学校の校庭に集まり遊ぶことが大半であった。その日も校庭でサッカーをしていた。すると隣のクラスの女の子に呼び出しをされた。話したことは無かったが、その子は学年でも3番目くらいに男子から人気のある女の子だった。だが私はこの時既に学年で1番人気の女の子から本命チョコを貰っていたのでかなり有頂天になっていた。加えて、以前から呼び出しをしてきた子の友達が私のことを好きだという噂があった為、「それは誰の呼び出し?」とかなり上から目線で聞いた。案の定友達に頼まれたと返ってくる。私は既にひやかし始めてる他の男子にこれ以上からかわれたくなかった上、その友達は学年で最も嫌われている女子だった為、「用事のある人間が直接呼ぶのが筋なのでは?自分の用事なのに友達を使うなって言っといて」とぶっきらぼうに伝言を頼んだ。

その女の子がちゃんと伝えたは分からないが、友達のところに戻った後、本人から呼び出しされることはなかった。私はサッカーに戻った。

帰る合図のチャイムが鳴り、私は家に帰ることにした。この時には既に呼び出されたことも忘れていた。そして家に帰り玄関を開けるとそこには先程友達に呼び出しを命じた張本人がいた。ハリセンボンの箕輪はるかに似ていたので仮名は箕輪とする。家の中にいた箕輪はまだ玄関で状況が分かっていない私にチョコを差し出した。その様子を母と弟が見ている。家の中に入るためには箕輪をどかさないと入れないが、箕輪はチョコを受け取ってくれない限りどく気はないだろう。何より家族が見ている為邪険に扱うことも出来ない。「ありがとう」と言いチョコを受け取った。箕輪は満足そうに「お邪魔しました」と言い帰って行った。

 


それから母と弟に事情を聞くと、どうやら箕輪は学校で遊んでいた弟を発見し、尾行してきたようだった。家に入る時に誰かが着いてきていたことに気付いた弟に対し、箕輪は「りっかくんの友達です」と先手を打ったそうだ。弟は私を探したがまだ帰ってきていない。すると玄関先で話している声につられて家の中から母が出てきた。箕輪は母に「りっかくんが帰ってくるまで中で待たせて下さい」と頼んだ。母は快く了承し、家の中で待たせた。

私は何で勝手に家に入れたんだと怒ったが、何も知らない母にはどうしようもなかったことだろう。貰ったチョコの袋には「貰ってくれてありがとう。好きです。」と書かれた手紙と石のように硬い手作りチョコが入っていた。

 


後で呼び出しを手伝わされた友達に聞いてみると、好きになったきっかけはいじめられているところを助けたことかららしい。確かに体操着袋を汚物扱いされて男子に投げられているのを奪って返したことはあったが、それが箕輪であることは知らなかった。

この2ヶ月前にパパイヤ鈴木からの告白年賀状が届いたばかりであり、これらが相まって、もう誰彼構わず親切平等に接するのは辞めようと誓った。お陰で(?)これ以降知らない人や変な人に告白されることはめっきり無くなった。ちなみに箕輪へのホワイトデーのお返しはきちんとした。

 


次回、スプラトゥーンに出会うまでのゲーム履歴。