半生記Part2

 

 

私は3歳の頃にコナンを見始めた。たまたまつけたテレビでやっていたのがきっかけだ。それ以来コナンに憧れを抱いていた。それはコナンという人格や能力にではなく、アニメの主人公だからという理由の方が正確だと思う。他のアニメをたまたま見ていたらその主人公に憧れを抱いただろう。

コナンのネットで有名な話の中に、モーニングを頼める時間にきた他の客がサンドイッチを頼んで不審に思い尾行するというものがある。当時見ていた話は違うものだが、私はそんな日常でも周囲を常に注意して見ているコナンをかっこいいと思った。以来、コナンの真似事をしていくようになる。

 


アニメのコナンは呆れた心情を表現する際に口を開いたまま視聴者に向かって吐露する。そして何故か周囲の蘭やおっちゃんには聞こえていない。コナンに限らずアニメのキャラクター全般に言えることだが、4歳の頃の私はこれをコナン特有の能力だと思っていた。コナンの発した声は何故か周囲には聞こえていない。私はこの能力を身に付けたいと考え、実験を始めた。

まずそのまま心情を呟いてみる。すると近くの母から返事がくる。つまり失敗だ。

思えばコナンは口を開けたまま腹話術のように動かさずに喋っていた。今度はそのように話してみると、当然だがそもそも喋りづらい。だが一応母に「なんて言ってたか分かる?」と聞くと「分からなかった」と返ってきた。意味が分からなかったという意味だったのか、こちらの意図を汲んで答えてくれたのかは不明だが、それ以来口を開けたまま動かさずに心情を吐露するのがマイブームとなった。しかしどうにも意思が伝わってしまうことが頻発する。この能力は私にはまだ早いと感じ、習得するのは諦めた。程なくしてこれがアニメの世界特有のものだと知る。

 


コナンの世界では盗聴器が日常的に使われている。私は自分の家にも盗聴器が仕掛けてあるのではないかと疑った。

それは5歳のクリスマス。覚えたてのひらがなを使い、母に教わりながらサンタさんへ手紙を書いていた。その後日、去年は空に向かって欲しいものを叫んだのを思い出した。

「なんでサンタさんはあの時ぼくの声が聞こえたんだろう。分かった!盗聴器が仕掛けられているんだ!」

そこから盗聴器の大捜索が行われた。当然見つけることは出来ず、既に回収されている説を母に唱えられ納得したが、実はこの時既に押し入れにサンタさんからのプレゼントが入っていたのだ。高い位置に隠されていた為見つけることはできなかったが、母は内心ヒヤヒヤしたと言う。

その年から私vsサンタさんの戦いが始まった。

サンタさんは白い毛髪なので室内に白髪が落ちていないか探した。当人は冗談のつもりだったのだが、それをこっそり見ていたサンタさんは危機感を覚え、翌年から本格的な証拠工作を始める。

翌年、朝起きるとカーテンは若干開いていた。母は「サンタさんが閉め忘れたんだね」と言っており、私は納得した。

毎年何かしらの「来た証拠」が用意してあった。私自身、元からサンタさんの存在自体は疑ってはいなかったのだが、絶妙に用意されていた証拠のお陰か、その後も存在を疑うことは小学4年生までしなかった。

中でもベランダの植木鉢が変えられていたのは今考えても凄いと思う。

ある年の朝、起きてから母がベランダに出た時、何かに気付いて叫んだ。サンタさんが夜中ベランダから来たのはいいが、ベランダにあった植木鉢を倒してしまったらしいのだ。そのお詫びなのか、植木鉢が立派なものに変わっていた。周りには倒した時にこぼれてしまったと思われる土が若干落ちている。

「お母さんもサンタさんにプレゼント貰っちゃった」と言っており、当時はラッキーだったねくらいにしか思っていなかったが、子供の夢を守る為に必死だった母を思うと頭が上がらない。そんな母は、この話を大人になってから話した時、「二度とこんな面倒な子供育てたくない」と言っていた。ごめんなさい。

 


コナンは疑問に思うことがあると必ず行動に移す。同じことを私はスーパーボールで実行した。小学生の時(年齢は覚えていない)に従兄弟から大中様々な大きさのスーパーボールを貰った。最初はただ弾ませて楽しんでいたが、疑問に直面する。それは「何故落とした高さより高く弾まないのか」だ。理由は当然考えても分からなかったが、逆にどうしたら落とした高さより高く弾むかを考え出した。まず持っている全てのスーパーボールを自由落下させて弾む高さを調べた。私は大きい程弾むと考えていたが、そのようなことはなかった為、大きさは関係ないことを学んだ。次に強く地面に叩きつけると落とした高さより高く弾むことに気付いた。だがそれは最初の1回目のバウンドのみで、2回目目以降はやはり段々と高度が下がってしまう。

落とす場所を変えてみた。普段はフローリングに落としていたが、本の上に落とすと弾まないことは既に知っていた。そこで様々な素材の上に落としてみるが、どれもフローリングより高く弾むことはなかった。

最後にボールにバックスピンをかけて落とすとバウンド時に軌道が自分のいる方向に変わることに気付いた。更に2回目のバウンドでは逆のベクトルに変わり、3回目のバウンドでまた自分のいる方向に変わることを発見した。が、その理由までは分からなかった。

疑問は解決されるどころか逆に増えてしまったが、これらの疑問はその後ずっと頭の中に残り続け、高校で物理を習う中でやっと全ての事象の原理が分かり、スッキリした記憶がある。これは私が物理学の道へ進むきっかけとなった。

 


次にモテ期(恋愛話)について語るが、人格形成に影響する程の話は3つのみなのでその他は割愛することにする。


1つ目の事件は小学4年生の時に起きたのだが、その話をする前に10歳までの私の性格から話す。

私は自分で言うのもあれだがとにかく優しい人間に育った。親の教育の賜物だろう。誰にでも同じように接し、他人の喜びも自分の事のように喜んだ。

小学2年生の頃、クラスに発達障害の女の子がいた。会話もままならず、いつもニヤニヤしてるだけで他の誰もコミュニケーションを取ることはせず避けていた。だが私は毎日話しかけて会話を試みていた。グループを作る授業では彼女は必ず余ってしまうのでいつも率先して同じグループになった。するとある日、とうとう片言だが会話が出来るようになったのだ。会話が出来るようになったのは私の手柄ではないが、それがとても嬉しくて帰ってから真っ先に母に「今日はいい事があった!」と報告したのを覚えている。

私の母は家庭訪問では先生に、保護者会ではその子の母親に息子への感謝を伝えられ鼻が高かったと言う。

 


小学4年生の時に起きた事件について話を戻す。事件は席替えで起きた。当時席替えは所謂お見合い席替えという方式だった。(分からない方は調べて下さい)

当時私は好きな女の子と両想いだった。この方式の席替えは、比較的不人気な前の席であれば好きな者同士が座れるシステムである。当然私達は事前に打ち合わせし、どこに座るかを決めていた。

 


だが、そこには1つだけ落とし穴があった。私は目が悪かったので例外的にお見合い席替えには参加せず、先に前の席を選ぶ権利があったのだ。その時も私は迷わず事前に打ち合わせした席を選んだが、結果から言えばこれが間違いだった。目が悪い人が席を選ぶ時だけは教室に男女揃っている時に行うのだ。つまり女子側は私の席だけは分かる状態でお見合い席替えが始まるので、もし好きな女の子(仮名を細川とする)以外に私の隣に座りたい人がいれば確保出来てしまうのだ。

だがこれは落とし穴ではないと判断していた。何故なら、私の隣を率先して選ぶと、クラス中に噂されてしまうからだ。よって私は誰も選びたくても選べず余り物となると推測していた。そして、事前に打ち合わせした細川には私に「隣に座って欲しいと言われた」という大義名分がある。さっさと堂々と座ればいいだけだ。作戦は完璧だと思っていた。

 


男子が席を決め終え女子の番になったが、何故か異様に時間がかかっている。男子がザワついて来た時、女子が全員廊下に出てきた。決まったのかと思って近くの女子に声をかけると「まだ。これから2回戦が始まる。」と言われた。全く意味が分からなかったが、まだ席は決まっていないそうなので大人しく廊下で待機した。その後、担任の合図で男子も教室に入ると女子が決まった席で待機していた。私も自分の席に向かった。すると隣にいるはずの好きな女の子は別の席に座っていた。代わりに自分の隣の席に座っているのはクラスで1番太った女の子(仮名をデブ山とする)であった。何が起きたのか分からないまま席替えは幕を閉じ、その日の放課後に細川に何があったのか聞いた。

 


細川は油断していた。私が細川に隣になるよう話してるのは割と皆知っていることだった故、私の隣を奪おうものなら他の女子からも顰蹙を買う恐れがあるからだ。

だが、デブ山はいの一番に私の隣の席に座ったのだ。不測の事態に呆然とする細川を心配しつつも、他の女子も席を選んだ。普通なら為す術なく諦めざるを得ない状況だろうが彼女のメンタルもデブ山同様強かった。

「そこ私に座って欲しいってりっかくんに言われていたんですけど」と喧嘩を売ったのだ。しかしそのような言葉で屈するような女ならそもそも座るわけがない。「早い者勝ちのルールだから」とデブ山。

本来の言い分ならルールは破っていないデブ山有利の出来事だが、担任の先生は意外な判断を下した。

「仕切り直しとします。全員もう一度廊下に出て、先生が合図をしたら着席して下さい。」

我々からすれば神対応だが、先生はこの時どんな気持ちだったのかが気になる。

 


そして2回戦、状況が分かっていない廊下の男子を他所に先生は「よーいドン!」と合図をかけた。刹那、細川とデブ山は走った。通常の徒競走なら細川有利だが、これは戦争である。フィジカル(物理)の差で細川を跳ね飛ばし、デブ山が着席した。本当に吹き飛ばされて可哀想だった反面、ちょっと笑いそうになったと後日別の女の子が教えてくれた。

というわけで私の隣の席はデブ山に決まった。唯一の落とし穴はデブ山のメンタルだった。

 


私のクラスはお見合い席替えとくじ引き席替えが交互に行われていた為、次に細川と隣の席になれるのは相当先の話になってしまった。

だが当時の私は最初に述べた通り本当に優しい人間だった。細川と隣の席にはなれなかったがデブ山を恨むことはせず、次の席替えまで楽しくやっていこうと心を切り替えた。実際デブ山と毎日楽しく給食を食べ、互いに忘れ物をした時は助け合った。だが、どうしても受け入れ難いことがあった。それはスキンシップを取られる時だ。私はよくデブ山に冗談を言い笑わせていたが、その際に「ちょっと何言ってんのよ〜」的なノリで叩かれていたのだが、これが無理だった。

まず一撃が重たい。デブで体重がかかっているからなのか、異様に痛いのだ。加えてヌルヌルしている。デブだからなのか、汗っかきなのだ。しかもたまにタッチしている時間が長い。私が初めて人に負の感情を抱いた瞬間だった。それ以来デブ山に限らず、デブに対しては多少距離を置くようになった。

これがデブを毛嫌いするようになったルーツである。蛇足だがこの後告白されてフッている。

 


前回以上に長くなってしまったので今日はここまで。

次回は恋愛エピソードその2とその3etc。